まず「無用の用」の携行品とは何か

中島らものエッセイに『しりとりえっせい』というものがある。タイトルでしりとりをしていきながら、そのテーマでエッセイを書いていくという趣向のエッセイ集だ。その中の一本に「リトマス試験紙」というものがある。

 

“僕の知人のギタリスト、チチ松村さんは、旅行に行くときのバックの中に必ず「分度器」を入れていく。なぜ旅行に行くのに「分度器」がいるのか、本人もよくわかっていないらしくて、その証拠に、「まだ使ったことはない」らしい。「…略…」これは一種の「風流」ではないだろうか。分度器の持つ「無用性」が、その旅行に謎をかけ、形而上的開放をもたらすのだ。”
(中島らも『しりとりえっせい』 1993年12月15日第1刷 13頁より引用)

 

ここで言われる「無用の用」とは何事かをするとき、どこかへ行くときに、あえて不必要な物を携帯するということである。この携帯する物は何でも良い。

 

巻尺・円切りカッター・プリズム・星座盤・万華鏡・立体メガネ・乱数表・三葉虫の化石・写植級数表・イタチよけのアワビの貝がら・次亜塩素酸ナトリウム・女房・リトマス試験紙……。

 

中島らもは以上のような物を上げている。だから本当に何でも良いのだ。ただ持っているだけで用をなす。それが無用の用というものである。しかしながら、邪魔な物は持ちたくない人にとっては「無駄」にしかならない。

だからこの記事は無用の用に興味がある人向けの記事である。私なりに無用の用になりそうな物を考えてみた。されど、どうだろうか?無用の用をわざわざ考えることは無用の用を満たしうるのだろうか?

 

「老子」や「荘子」の中にある意味とはいささか違うが、案外的を射ているようにも思える。

 

まぁ、深くは考えないでおこう。どこで役に立つかなど分からないのだから。

 

 

ビシネスシーン編

通常業務

仕事中に携行するものは何が良いだろう。なるべく汎用性の高い物が良い。なぜならば様々な職種があるからだ。一案としてペットボトルのキャップはどうだろう。
つまらない作業や仕事のさなか、ふとポケットにペットボトルのキャップを見つける。

(あぁ、いつか捨て忘れたんだな。あとで捨てておかないと)
そう思いながら再び業務に戻るのである。

 

叱られ中

ノルマを達成出来ず上司に説教を食らっている。しかし、あなたのネクタイの裏には栞が貼り付けられている。栞は特別なものではない。何の変哲もない新品の文庫本に挟まっている紙の栞だ。

(今は怒られているが、俺のネクタイの裏には栞があるし……)
上司は恐らくネクタイの裏に栞を隠し持っていないだろう。いいじゃないか。

 

満員電車で腹痛になったとき

これは別に出勤中でなくとも構わない。通学中でも、出かけ中でも、移動中の急な腹痛なら当てはまる。さて、腹痛で実際に役に立つのは薬やトイレだろう。では、無用の用とは?

(あ、ボールペンのインクが切れていたんだ)
ふと思い出す。手帳に書き込むためのボールペンのインクが無くなっていることに。カバンの中には、もう書くことの出来ないボールペンが一本入っているのである。

 

嫌な飲み会の席で

ぐちばかりをこぼす先輩に連れられて飲み屋へと入ってしまった。これはきっと長くなるぞと感じる。困ったものだ。そんな時にはこっそりピンポン玉を懐に忍ばせておこう。

(ふふふ、しめしめ。奴はこのことを知らない)
ほくそ笑むのだ。

 

会社がブラック企業だったら

連日の出勤、サービス残業、安月給、理不尽な上司……。なんと嘆かわしいことか。ならばきっとこれが良い。スーパーボールだ。それも特大サイズの。

(辞表でも書くか……)
丸く収まるだろう。ボールだけに。

 

 

スクールライフ編

授業中

通常業務中と何か違いがあるのか?書いている途中で疑問に思ったがこれも無用の用、きっとそうだ。では、考えてみよう。

(ふふふ……私のペンケースには栗が1つ…………)
ある女学生の独白である。

 

遅刻しそうなとき

これは簡単だ。物ではなく遅刻するという選択肢をすでに持っている。

 

テストの問題が解けなかったら

これまた簡単。テストが終わるまでの無為な時間が横たわっている。

 

告白してふられたとき

「ごめんなさい、あなたとはいいお友達でいたいから」そう言い残し、彼女は男子学生の横を通って帰ってしまった。

(ええい、ちくしょう。だけど俺は諦めないぜ。ヘアゴムもあることだしな)
ちなみに、男子学生は坊主である。

 

部活中

部活のOBが後ろで怒鳴っている。「元気無いぞ!声出てないぞ!」、と。邪魔なので来ないでくださいと言えたらどんなに清々しいだろう。

(こっちはなぁ、おまえがゲーセンの筐体殴って出禁になってるの知ってんだよ)
情報もまた、無用の用に含まれるのではないだろうか。

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旅行編

目的地が決まらないとき

旅行雑誌を何冊も買って見比べたのだが、どうもしっくりとこない。

(もしかすると、本当は旅行に行きたくないのかもしれない。一人旅もいいかと休暇も取ったのに……)
悩める人の傍らには毛抜があるのであった。

 

道に迷ったら

(こまったぞ……。ホテルの場所が分からない。海外で言葉も通じない……)
右往左往する間中も、カバンの中には糸ようじが入っている。もしくは歯間ブラシ。歯磨きセットは忘れてきたというのに。

 

パスポートを紛失したら

まずは大使館に駆け込もう。あと、現地で買った日本製の文房具があると尚良い。

 

成田離婚になったら

離婚届の前にまず法螺貝。吹いてみれば腹の底に響く音が響き渡ることだろう。

 

インドに行って価値観が変わってしまったら

先日、インドに行った人がいた。話を聞くと衝撃で価値観が全く変わってしまったらしい。二泊三日のツアー旅行で変わってしまったらしい。

(こうしちゃいられない。こうしちゃいられないが、何から始めよう)
価値観が変わってしまった人の家の冷蔵庫には、すでに腐ってしまった玉ねぎがあるらしかった。

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なんじゃこりゃ

中島らもが好きだ。エッセイが特に好きだ。まだ数冊しか読んでいないが、すっかり魅了されてしまった。話は変わるが、来月の生活が苦しくなりそうだ。そこで必要になるのはお金である。

しかしだ。無用の用について書いてきたのだから、お金が無用の用であるはずがない。いいや、ひょっとするとお金こそが無用の用であるのかもしれない。根拠はない。根拠はないがそう感じる。

今必要なのはきっと――――――
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……なんだよ、知らないぞ。

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